日曜、昼下がりの情事・・


LAN。

無線の。

電気がピコピコ飛んでいって、線で繋がっていないパソコンががちゃがちゃ動くの。


知ってるよ、そのくらい。

こないだまで元気にしていたデル君もちゃんとそーやって動かしてたんだもの。

でもね、ちょっと友人のパソコンがうちに」来て、今までと同じように使おう思っていろいろやってみたのよ、設定を。

こんな事もあろうかと、前に設定したときに全部難しそうな記号やパスワードも保管してあって。


楽勝だろうと臨んだのですが・・・





全然できない。

何故?

取説に書いてあるとーりにやってみるも、<はい、この画面が出てきたら次に・・・>の画面が出てこない、全く。

日曜日の昼間っから電話サポートのおねいちゃんも嫌だろうと、我慢して4時間くらい格闘したんだけどどーにもならんくて。


きぃいいってなってNTTに電話してみたさ。







「もしもし・・・ごめんね、素人質問で。あのね・・云々かんぬん・・・」




「あぁ、それなら大丈夫ですよ、ゆっーっくり一緒にやれば大丈夫ですからねぇ。フフフ、きっと上手くいきますわ。」






最近、この手の電話の人にツイてるかも。

このおねいさんはすんごく優しそうな、ちょっと艶っぽい声の持ち主でドキドキしました。




「は・・・はい・・言うことを聞きますから・・どぞ、よろしくお願いします・・」




日曜日の昼下がりは多少エロタイムなのかもしれない。


テンションがあがってきた。






「・・その下の方を見て下さい。○○がありましたか?」


「あ、あります・・」





「そこをクリックして下さい・・」


「はい、くりっくします・・」






「○○が開きましたか?」


「はい、ひ、ひらきました・・」






「・・・立ち上がりましたか?」


「た、た、立ち上がりました!」





「・・・・・はい、ここをこうして、次にCDを入れて下さい。・・入りましたか?」



「はぁ、はぁ、は、入りました・・・」








おうぃえ。











こんなもんですわ、自分。


Mっておもしろいのかなーやっぱり怖いなー、みたいな。


ま、アホウなのは自覚症状あるからじぇんじぇん平気。








で、結局繋がらなくて。

っていうのも、今回設定しようとしたのはキムタクパソコンなんだけど、何でもそのパソコンの中にはLANカードというのが既に入っている状態らしくて。


私が今まで使っていたのはNTTがくれた?なんたらって言う外からぶっ刺すカード。

で、そのキムタクパソコンに外からぶっ刺してみると、元々の奴とケンカしてるみたいな状態になっちゃうんだと。


どっちかを殺しても奥の方で何かが干渉してるみたいになっちゃうって。


NTTの色っぽいおねぃさんが言ってた。


だから今度はキムタク屋さんに電話してみた。



そしたら、愛想だけ良さそうなおばちゃんが出てきたので白けちゃって。


あっちこっちにたらい回しにされてメンドクセーなーとか思ってたら5分くらいの長い保留の後、月曜日にサービスの方から電話させます・・・って。

怒る気力も元気もさっきの色っぽいおねぃちゃんで使い果たしていたので、はいはい、んじゃ、そゆことでよろしくね的にがちゃん。



だめだわ。

キムタクパソコン、こりゃ繋がらないわと。






あー、もう秋ねー、すっかり涼しくなって来ちゃって・・・
















<麻呂の話 8>



元気。

何気なく使うこの言葉がこんなに有り難い事だなんて。

私は凡人だから病気をしたときや、大切な者を失ったときにしか感じない。



このときは一秒ごとに感じていた。







蜜月。

そう、蜜月。



闘病の間、自分の身体を支える力を失っていた筋肉は弱々しかったです。

走るのが遅い、ジャンプがやりにくそう、等々。

だけど、そんなことを全く感じさせないほど麻呂の気力は充実していました。

とにかく。

朝起きてから夜寝るまで甘え続けて。

動き続けて。

はしゃぎ続けて。



私は出かけるのも一苦労でした。

足に絡んできて離してくれない。


「ダメダメ、もっと遊ぶの!」

ガウガウ言いながらいちびってズボンを引っ張り倒し、シャツやソックスは何枚もボロ雑巾のようになってしまいました。



が、かく言う私も、


「おお、麻呂ーだいぶん力が戻ってきたようだなー。いーぞいーぞ、もっとやれ!」



なんて、きゃっきゃとはしゃぎ回っていました。







一日中笑いが止まらない。

ずーっとずーっと。


嬉しくて嬉しくて幸福感に満ちあふれて。


ピンクのバッグで以前よりももっといろんなところに出かけました。


バイクにも慣れてきたようで、ざん切り頭をぴょこっと外に出して景色を楽しんでいるかのよう。

私たちは風に負けない大きな声で、






「あそこは○○公園。大きな犬がいっぱいいてちょっとおっかないから次の△△広場に向かいまーす!」



「わかったよ、兄ちゃん。早く遊びたいね!」



「任せろ!今日はフリスビーを持ってきたからな!」





なんて。


いやはや、楽しいったらありゃしない。









実はこの時、私はいけないことをしておりました。


先生の教えを守らない・・・


自分の身体でもそうなのですが・・・






麻呂は言われておりました。


「とにかくチューブが詰まってしまうことが一番怖い。
脳内に貯まった水が排出されなくなり、また圧迫が始まって猛烈な痛みや痙攣を引き起こす。
特にダックスは胴が長く高低の差が少ないので下に下に流れる事が大切。

あと、もう一つ。
麻呂は今成長の段階。
日に日に身体が大きくなろうとしている。
身体に通したチュ−ブが筋肉や骨の成長に伴い、はずれてしまったりずれてしまったりすることが想像できる。
だから極力激しい運動は避けるように・・・」





手術が終わった麻呂を迎えに行ったとき、麻呂は私の身体に飛びついてきました。

そして私の顔をぺろぺろと何度もなめながら、



「お兄ちゃん、いっぱい遊びたい。いっぱいいっぱい。ね、お願いだよ、僕、お兄ちゃんと遊びたい!」



と言ったのです。

彼の心がそう聞こえたのです。




自宅に連れ戻してからのはしゃぎよう・・・


「こら、麻呂。もっと大人しくしてないとダメなんだよ。」


2〜3回は言ったでしょうか。





「やだ。遊ぶ、お兄ちゃんと遊ぶ!」






諦めました。



あんなに辛くてきついところから奇跡的に戻ってきた麻呂です。

これ以上の不幸があるとは想像できません。

ものすごいパワーの持ち主なんです。

遊びたい麻呂を檻に閉じこめて大人しくさせることができませんでした。

子犬らしく元気いっぱいに走らせてやりたかった。

縄で縛って動かないようにさせて、それが例え何年間も生き続けることになったとしても、彼の尊厳や誇りを私が奪うような気がしました。



だから・・・。





毎晩毎晩、なかなか寝かせてくれません。



「麻呂、もうギブ。お兄ちゃん寝るよ、お休みー!」



と、狸寝入りをするも、フンフンと鼻を鳴らしながらテケテケテケと足音が近づいてきます。



「ねー、もうちょっとー。電気点けてよー。」



頬やら耳やらをぺろぺろ。


「わーった、わーったよ、もう!」



全然満更でもない私。



今まで遊べなかった分を取り返そうとしている、麻呂のそんな意気込みを感じます。


もちろん、ご飯やトイレのこともちゃんと覚えてくれました。


本当に脳の手術をしたのだろうか?と思えるほど。


家に遊びに来てくれる友人達のことも覚えており、人によって遊ぶ内容まで使い分けております。


私の、


「ダメ!」

「よし!」


も完璧に聞き分けており。




「すごいねー麻呂。またトイレでおしっこできたねー!  ご飯こぼさないで食べたねー!」




こう言われたいがためにいちいち私を引っ張って見せに行きます。



しっぽピコピコさせながら得意満面顔で。



何の問題もない。










わんわんわんわんわん・・・


ぎゃはははははははは・・・・









蜜月。

そんな蜜月な、充実した時間を一ヶ月ちょっと過ごしたでしょうか。









・・・・

ある夜のこと。


この日もさんざん遊びまくりました。

気がおかしくなるほど、いっぱい走っていっぱい食べて。

いつも通りに、




「じゃね、麻呂。お休み!消灯時間ですよー!」




どうせすぐに寝るわけない。

今日はどうやって俺を起こしに来るのかな?

しかし、あのテケテケテケっていう足音は何度聞いても可愛いなー。



・・・

あれ?





目を凝らしてハウスをのぞき込むと・・・


大人しく麻呂が毛布の上で丸まっています。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





嫌な予感。




<今日は遊びすぎたんだ。
  だからいつもより疲れがたまってるんだ。
   だから本当に眠いだけなんだ。
    ただそれだけなんだ。
     何も心配はいらない。>




自分に言い聞かせる、以前の私がいました。





しかし、この頃の私は麻呂の身体に関しての危機察知能力は研ぎ澄まされておりました。







・・・間違いない。異変だ。チューブが詰まったか・・・





知りたくもない事を、感じたくもないことを私は敏感に察知していました。


そしてそれが間違っていないという確信もありました。












五時間後。


空気が冷たい。


夜が明けかかって空が白み始めていたのを覚えています。


以前よりも激しく痛がり、魚のように身体を反り返しながら大声で泣き続ける麻呂を抱いて私は表の住宅街を歩いておりました。



ものすごい大きな声で・・・


口を塞いでやります。


歯の隙間から泡を吹きながら、まだ泣こうとします。


強く、強く抱きしめました。


このままもっと強く抱いて楽にしてやりたい・・・そんな考えが頭をよぎりました。





あの後ずっと痙攣を起こして泣いている麻呂に何を言ってやればよいかも分かりませんでした。


柿の木坂の街をずっと、二人で泣きながら歩いておりました。



朝一番で病院に連れて行こう・・・



ドロドロとした真っ黒な重いガスと水が私の身体を支配していました・・・











    <ここまできたら、ん、続くよ>












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走り倒した

この4日間ほど。

まぁ走りも走ったり、1600km。

間の二日間はほとんど動いていないから実質2日間で。



一昨年くらい?に北九州の門司に行って以来よ、こんなに運転したの。

ものすごく疲れるんだろうなーと予想していたけど、ソでもなかった。

アンメルツを顔面に塗りまくりながらだったから顔がヒリヒリしてるけど意外とタフなのね、俺。


三重に滋賀に静岡に。

ゆっくりするつもりがあんまり無かったのでこれはこれで楽しかったわ。



でも次は必ずゆっくりの旅をしたいものです。




さしたるおみやげも買わないでそのままゲキ塾。の稽古に参加。

ウエポン君と正太君がいない。


どしたのかな?とメールを確認してみると・・



おおっ、そうかそうか、今日から撮影開始ですか!

映画「20世紀少年-2」の撮影。


二人がいないとちょっと寂しいけど、お仕事ならばそれは良いこと。

運良く二人ともオーディションに受かり、大きな仕事に参加するなんてそれはそれはゲキ塾。としてもめでたいことです。



きっと何かをつかんでくることでしょう。

がんばれ、二人とも!












でもって帰宅して大量に届いているメールをチェックすると、おお、デルから。

そう、先日たたいたら壊れたPCの買い換えバージョン。

注文をしてあった分についての確認、詳細のメールでした。

なになに?

ふんふん、なるほど、もっと時間がかかると言われていたが25日に着くのか。

それは良かった良かった。



で、その下の方の広告を見てみると・・・

ありゃりゃ、同じPCが全然安い価格で売りに出されている。


ちょっくらカスタマイズしてみて、と。

・・・

やっぱり全然安い。


なんだかなー・・・納得いかないなー・・・気持ち悪いなー・・・


イヤな値切り根性丸出しの私の西日本的魂に火がついた。

デルに電話します。




「もしもし、すんません、ちょっと、というかかなりせこいことで電話させてもらったんですがよろしいですか?」


「はいはい、何でも結構ですよ、おっしゃって下さい。」



「あのね、先日注文した者なんですが、今日の広告メールを見てみたらなんかものすご損した気分満載なんですけど。この新しいキャンペーンの値段を適用するわけにはいかんですか?」


「・・・・あ、ちょっと待って下さいませ。」




言わずとしれた、デルさんとこの電話対応の子はちうごく人が多い、ってか殆ど。

でも今回の私の対応をしてくれた人は、にぽーんの人。

何かと意思の疎通がしやすい、プラスニュアンスを伝えやすい。



今回は仲良し作戦(Bパターン)を使ってみた。(註:パターンに意味はない)

要するに笑わしにかかる、ってこと。

お天気の話やら新総裁の話まで絡めてあーでもない・こーでもないとくすぐっていたらば、



「分かりました、妹尾さん。私が責任を持ってそのように発注しておきますので・・・」


「ありがとうねー、○○さん。
いやいや、この世知辛い世の中に貴女のような方がITの電話対応をされているということは日本の誇りです。
デルを辞めないでずっと見守っていってほしい。
結婚をされてもずっとね。
デルを大きく躍進させるのは○○さん、貴女だと確信しておりますよ。
今回のことはお礼のメール文書にて然るべき窓口まで届けさせてもらいますぞ。
融通の利くITの人、初めて見たわ。」



「いやいやいやいやいやいやいや・・・本当に結構ですから。あ、直通の電話をお教えしますので何か分からないことがあればすぐのお電話下さいね、迅速に対応させていただきますから。」






こーゆー人は顔を見なくても美人に決まってると私は決めたい。

そんな楽しい午前中でした。


本来ならば一から注文し直しで、もう一度2週間ほど待たなければならないのですが、スペックを変えなかったので、新しい注文番号を何とかその商品に振り分けてくれるとのこと。


つまり、前の注文分はキャンセルされて、新しいキャンペーンの価格で明日か明後日に届く、ってこと。

これは有り難い話でございました。


現在 twotop のパソコンを使っていますが、デルもなかなかやるなと印象が良くなりましたぞ。











































<麻呂のお話 7>



翌日Hさんのお宅に行くと、座る暇も与えずにHさんは話し始めました。


「妹尾君、本当にごめん。辛い思いをさせちゃって。まずは謝らせて。
で、この後のことなんだけど、私の知っている先生が一度麻呂君を診せてって言ってくれてるの。」



昨日の今日です。

Hさん、どんだけ動いてくれんだろうと思うと感謝の気持ちで押しつぶされそうになりました。

察してるかのように、



「今はとにかく麻呂君のことだけを考えよう。どうするのが一番いいのかは私たちが決める事じゃない。ちゃんと先生に診てもらおう、ね、すぐに行こう。」



紹介されたのはとある獣医大学の病院です。

話が通っていたのか、大勢並んでいる患者(患犬?)をよそに脇の通路から通されました。

もちろん、私は例のCTの写真を携えています。



先生が写真と麻呂を見比べながら体中を触診しています。

見守る私たち。

・・・



希望のある言葉が聞きたくて。

それ以外聞きたくなくて・・・


長く感じました。

実質4〜5分くらいでしょうか。





先生が私の方を振り返り、ゆっくりと口を開きました。





「妹尾さん。・・・殺すことはない。まだまだ手はありますよ。難しいですがやってみる価値はあると思う。」







待ってました。



そーゆー言葉。



頭の中で花火とかクラッカーとか爆竹とか、とにかくばんばん鳴り響いていてうるさい。





「ありがとうございます!」





「ここまでよくあきらめませんでしたね。その執念は麻呂君にも伝わっていますよ。
そして、そこまで守ってもらって麻呂君はとても幸せな子犬だと思いますよ。
・・・それにしても何の工夫も考えずパターン的に安楽死を勧めるのは解せない・・・」


「・・・はい。特に私のようなタイプには。」






詳しい話を聞いてみると、やはり完治するわけではないらしいのだが、少なくとも今よりは痛みを抑えてやることができるらしい。

今のままでも麻呂の頭は十分に働いていると私は認識しているので願ったりかなったり、いや、最高の気持ちだ。






ミニチュアダックスフント。

特徴:体長は低く胴が長い。






これからの治療法はこうだ。

頭に貯まった水(これが脳を圧迫して痛みや痙攣を引き起こさせる)をチューブを使って膀胱を通し、尿として排出させる。

これからも溜まり続けるのでチューブを抜くことはできない。

チューブは体内を通すには弊害が多すぎるので、頭蓋骨に穴を開け、そこにチューブを通して骨と皮膚の間を背中に沿って挿入する。


もちろん体力の低下に伴う手術の危険性は十分に予想してほしいとのこと。

てか低いぞ、と。

更に、上手くいったとしても、胴長体型なので(上から下に流れにくい)体液が排出される際にチューブの途中で詰まってしまう可能性がある。

そしたらかなりやばい。

それは今までに同様の手術例が無いのでどのくらい持つのかは想像できない。

1日しか持たないかもしれないが10年持つかもしれない。

まさに神のみぞ知る・・・・だと。

脳を手術するというのはネガティヴな要素が多い。

生まれ変わったように違う性格になっていたり人や物を忘れていたり。


あとは手術にかかる費用は決して安いものではない・・ということ。

ま、保険効かないし、ね。






こういった条件を懇切丁寧に話してくれました。

当時の私の脳みそでも十分に理解できる程優しく、丁寧に。





上等です。

命を賭けるには十分すぎる条件です。

成功率3割?



もっと打率の低いやつがプロ野球選手やってる。

二人で病気にケンカ売るって言うのはそのくらいの方が燃えてくるってものです。ウソです。





しかし、考えるまでもありませんでした。

見過ごして死なせるよりは賭けてみる。


そういったモチベーションで望んでおりましたから。

早速翌日に手術をすることになりました。

いろんな書類にサインをして、麻呂とはここでお別れです。

3日後に来てくれと言われました。

麻酔が切れる頃なんですって。






・・・また全身麻酔。


すぐに元気になって会おうな!

堅く男同士の約束です。

今生の別れではないと言い聞かせ、麻呂に何度もキスをして病院のハウスに入れ、私自ら錠をしました。





がんばれ、がんばってくれ・・・






翌日手術に立ち会おうと思い病院に連絡しましたが当然の事ながら断られました。

何か異変があれば必ず連絡してくれるという約束をしてもらい。

結局祈ることしかできませんでした。






一日千秋・・・





午後に、手術が上手くいったので安心しろとの連絡がありました。




一呼吸、二呼吸・・・

意識して空気を吸います。










翌日。


約束の日。


私と麻呂が元気に笑いあって再会するという約束の日。


朝、まだ病院が開く時間よりも早くつき、近くの駅でシュークリームとコーヒーを飲んで時間をつぶしました。


もちろん一番に飛び込んで受付をすませ、手術をした部屋の脇を通り抜け、術後の麻呂が眠っているであろうハウスの部屋を目指します。

看護婦さんが案内しようと笑顔で手を差し伸べてくれますが、私は軽く笑って遠慮してもらいます。




麻呂のいるところ。

ピンポイントでそこしか見ていません。




「どうしよう・・・先生に手術の説明を聞く前にこの部屋に来てしまった。
動けない状態なんだろうか。
もしも植物状態になっていたら・・・
私のことを認識できるんだろうか・・・
性格も変わってしまってるかも・・・
やはり機械につながれているのだろうか・・・」





いろんなことが頭に浮かびます。

とにかく。

とにかく昨日大きな手術をしたばかり。

そっとしておいてやらなきゃ。

遠くから見守るだけでもいい。

そっと、そっと・・・




簡単な無菌室のような作りの部屋をノックします。

どうぞと手で合図をされ、麻呂のハウスの前に立ちました。



呼吸を整えて心地よい気を出せる準備をします。




眠っていたら触らないでそっとしておいてやる。

もしも起きていたら、よく頑張ったなと笑ってやり、すぐに休ませてやる。




・・・・?





何か音が聞こえました。






もう一度。

間違いない。

私が間違えるはずがない。

麻呂の鼻息の音です。




「きゅーん!」


・・・


「早く!お兄ちゃん、早く開けて!」



うわ・・ははは?

マジで?





はやる気持ちを抑え鍵を開けました。

そのハウスは4段くらいに重ねられており、麻呂のそれは一番上の段です。

私の顔の正面くらいの高さ。



鍵が開きました。

と、そのとき私ではなく麻呂の方から体当たりで扉を開けてきたのです。

扉を開けると同時に私の顔をめがけてジャンプ!

飛びかかってきたではないですか!




「うわぁぁぁ、麻呂! やったな、おい。めちゃくちゃ元気じゃねーか!」



(はっはっ)と荒い呼吸をしながら私の首から顔からなめ回してきます。



「分かったよ、麻呂、わかった!」





笑いが止まりません。

きっと麻呂も同じだったでしょう。

嬉しくて嬉しくて涙が止まらなくて。







先生にお話を聞くために隣の部屋に行きました。


「あらら、麻呂君、昨夜よりももっと元気が出たねー。」


先生もにっこにこ。


てことは術後、麻酔が覚めてすぐに元気だったってこと?


やったやったやった!



「妹尾さん、これははっきり言いまして大成功です。
こんなに術後の経過がよいのも滅多にないことで。
すごい運の持ち主だと思います。
目もしっかりしているし。
・・・ただ、やはり脳はかなり圧迫されていて原型をとどめていない。
なのに何故こんなにしっかりと飼い主が分かったりするのか・・・理解できない。
生命とは素晴らしくも神秘的な物だと言うことでしょう。
大切にしてやって下さい。
また何か異変がありましたらすぐに連絡を。」





何十回頭を下げたか忘れるほどお礼を言いました。

ピンクの入れ物に麻呂を入れてその病院を振り返ったとき・・・聖地に見えました。

ガンダーラ。



祈りは通じる・・・Hさんはもちろん、誰彼ともなく感謝の気持ちを捧げました。




ざん切り麻呂



手術してー

髪の毛切ってー

管通してー

とほほな顔でー


お公家様の麻呂からざん切りお侍さんみたいになっちゃったよー。




              <分かったよ。つづけるよ。>


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金比羅さん

金比羅さん。



金比羅1


ちょっと前にね、そう、岡山に音撮りしに行ったときに助監督の水元さんと一緒に行ったのよ。

こんぴらさん。


二人ともちょっとなめててね、チョチョッと行ってササッと帰ってくればいいや的な考えで。

全然。

むちゃくちゃきつい。

暑い日だったのも手伝って、すんごいしんどいことになってしまった。



一番上の本堂にたどり着いたと思って、そこら辺のおっちゃんに



「ゴクローさまです。いやいや、精が出ますなぁ!はははは。」


なんて言っていたら、



「なになに。まだまだ上があるのよ。しんどいからちょっと休憩しているだけよ。」


って。


「・・・あ、そう。まだ上があるの?」


「お兄ちゃん達もせっかくここまで来たんだから行かなきゃダメでしょうよ。ほれ、頑張って。」


「うん、はい、そうそう、ちょうど今から行くところ。」

金比羅2




棒切れを拾って杖代わりにし、うんせうんせと登っていきました。

いやいや、久しぶりです、大量の汗。


元来汗かきで、だいたいの人は


「妹尾、おまえすごいなー。どこからそんなにいっぱい出てくるんだ?」


なんて言われているのですが、この時はもう半端じゃない。


Tシャツ一枚とジーパンだったのですが、上にたどり着くまでにばっbどもシャツを絞りました。


シャツを絞るほど・・・っていうのは聞いたことがあると思いますが、私の場合はボチャボチャと何度も絞れます。

絞れば妹尾汁がいっぱい。

ラーメン何杯分もの量が絞れます。

水元さんも、そういった光景は初めて見たらしく、ボーゼンとしておりましたが私は別に修行してそうなったワケじゃない。

元々。


Gパンのポッケに入れておいた何かのパンフレットも粉々にふやけており、何が書いてあったか判読できません。

金比羅4


↑これ、一番てっぺんに行ったらあったんだけど、エッチな神様なのかしら?








水を飲むところもなく参道まで倒れそうになりながら戻ってきました。



<ジュース1本250円>




高い。

ここまで我慢できたんだからもう少ししたまで降りて250円と200円、150円、120円の境目を見つけましょうよということになり。

おもしろいのかどうかは分からないけど、水元さんは軽い脱水症状で顔面が痙攣していたからおもしろ脳みそになっていたのでしょうね。




で、ずーっと下ってきていろいろとチェックしたんだけど、やっぱりというか別に大した意味もなくだんだんと安くなってきておりました。




「宇治金時、オンザミルク、大盛りで!」



あのかき氷は忘れられない味でした。

日本で一番古いと言われる劇場を見学し(ここではスルーしますが、かなりはまりました。すばらしい!)、知らないおじちゃんに教えてもらったうどん屋さんに。


<お化けうどん>


は?なんじゃそりゃ。

私もうどんに関しましては<マイスター>並びに<サー>の称号を持つ男。

後れを取るわけにはいかないのですが、なに?お・ば・け?

聞いたことねぇ・・・






「狐のことだよ。化かすから。」




上手くも何ともない解説に敗北感を感じつつ食べてみましたが、うううううむ、何というか、その・・・まぁ観光地の味ってことですな。


65点。





ホウホウの体で車にたどり着き、駐車場のおじちゃんに鍵を返してもらいます。


「おいくら万円?」


「そら兄さん、入場証を出してくれな分からんがな。」


「あー、はいはい、これね。」







びちょびちょのポッケから更に細かく分解された、濡れた紙切れを出して思い出す。



「しゃーないしゃーない。神さんとこに来てるんやもの、いろんなことあるわな。ざっくり気分良ぉ1.000円でいっとこ!」





あやうく500円×2枚になりそうなお札を渡してめでたしめでたし?





「88ヶ所?・・・お遍路さんは無理。」




変な誓いを胸に金比羅さんを後にしたのです。









金比羅5



















<麻呂の話 6>



考えて動かなきゃ。



いろんな事を調べました。


針治療、薬草、気孔、マッサージ、果ては祈祷まで。


破裂しそうな頭で考えます。


多くの人に意見を聞きました。



どれもこれも無理。


といいますのも、今の時点で麻呂にはものすごい負荷がかかっていると。

たぶん肉体的には限界を超えているんじゃないかと。


この状態で2度の全身麻酔、そこから復活しただけでも奇跡だ、とも言われました。









相変わらず、というよりもっと頻繁に、1日に3〜4回は痙攣を起こします。


わずか体長30cmくらいの子犬が壮絶な声をあげて転げ回ります。

抱きしめてやれば腕の中で転がる・・・



本当に絶対に何が何でも救えないんだったら楽にさせてあげた方がいいんじゃないか?





そんなことが、ふと頭をよぎると必ず麻呂はものすごい元気なそぶりで私の顔をなめ回します。

何度も何度もぺろぺろと。




「お兄ちゃん、辛気くさい。僕そんなこと考えてないよ、必ず良くなるから。僕も頑張るからお兄ちゃんも頑張って!」



そして、見てろと言わんばかりによろつきながらトイレに行き、おしっこをするのです。

トイレの枠からはみ出たところでするのだけれど、私は大きく喜びを伝えてやります。




「麻呂ー、すんごいねー、またできたねー。」



何度も何度もほおずりをして。

私の頬を通して彼の喜びが伝わってきます。



「そーだな、弱音なんて吐いちゃダメだな!麻呂は生きようとして必死なんだから。












すがる思いで最初の病院の門をたたきました。


東大出身の若い優秀な先生です。



「先生、紹介してもらった病院に行きました。
結果は・・・やっぱりダメでした。
このままだとどんどん麻呂が苦しくなるので安楽死させた方がいいって。
でも、少しでもいいから可能性にかけたいんです。
場美化、1%でもいいので可能性はありませんか?」





「妹尾さん、私の先生までがそうおっしゃっている・・・無理です。手段がないんです。」


「・・・・。」


「これはどこの病院に行っても変わらない答えです。間違った診断ではありません。」



「・・・はぁ?優秀な東大の先生が言ってるんだから間違いないって事?完璧に1%の可能性もないって事?奇跡もダメなの?それ決めてしゃべれるほど偉い人なの?」




この人間にはもう何も頼まないことを決めた。


エリートのいやらしさが一気に吹き出してきたように思えた。

私のひがみ根性か?

いや、ひがめるほど心に余裕はない。



優秀な自分が判断しているのだから間違いはない、的な人間は私は細胞レベルで拒絶する癖がある。

DNAにもプログラミングされているはず。



くそっ、ニコニコした裏側に何か不快に感じる空気があったがこれだったのか。

まぁ、今はケンカが大切なんじゃなくて麻呂の命。

だったらあとは自分でやろうと一瞬で決める。




「もういい。あんたとは話さなくていい。とにかく、その何万円もするCTスキャンのネガ、ってゆうかその写真をくれ。」



「いやいや、妹尾さん、これは私共の物ですよ。」


「は? おまえ馬鹿か。こっちが金払って命までかけて撮った写真、他人の物だって言うのか。記念写真撮ってもらって金払ってもらわずに帰るのか?」


「いえ、そういうことではなく、・・・」


「いいから渡せ!」


ロビーにまで響き渡る大きな声で、彼がしゃべりかけていたことを完全にふさぎます。

専門的な知識がないので所有権がどっちにあるのかは知りません。

ただ、自分で動くと決めた以上その写真がないと、どういう症状なのかを別の先生に見せることができません。

もちろんもう一度全身麻酔をうつなんて事はできません。




私は人と言うよりもヒト科の雄としてエリート医師と対峙することを選択しました。

ちょっとした賭でした。



私は立ち上がり、


「早く!」


一喝と同時に左手を差し出します。


彼の目線を一瞬も離しません。


渡さなければ私は暴れる。

たぶんこの診察室をめちゃめちゃにする。

警察が来ることになるでしょう。

構わない。

命を賭けているんだから、それ以上に失う物なんて何にもない。








目の前の狂いかけた大男にこの封筒を渡せば面倒なことにはならない。




彼が私のような人間だったら維持になって絶対に引かなかったでしょう。

しかし彼はお利口さんと言われる社会派。


私は賭に勝ちました。






「全部済んだら持ってきてやる。麻呂が元気になってたら1から勉強し直せよ。」










本当に麻呂と二人きりで大海原へ、大航海が始まったような気分でした。

前に前に進むだけ。



絶対治してやる。

根拠のない私の気合いを感じたのか、麻呂はまた何度も何度も頬をなめてくれました。









そうだ、一人話を聞いてくれる人がいる。

あの人なら横につながりを持っているかも。

少なくとも何かヒントがあるかもしれない。



アリババが直せるのなら宗教を変えても会いに行くくらいの覚悟はできていました。


ちょっと連絡しにくい気持ちがあったのですがこの時には吹っ飛んでいました。






「もしもし・・・」





何から話せばいいのか上手く整理がつかないまま、一気にまくし立てるように今までのことを話しました。


心あるブリーダーとして多くの犬を育てている人。

私のことを気に入ってくれ、麻呂をただ同然で譲ってくれた人、Hさん。

本当に犬が大好きで、愛して愛して、な人。






「えっ・・・」







Hさんは息を飲みました。


今まで何十年もやってきて、先天性の子とは出会わなかったとのこと。

麻呂の親もおじいちゃんおばあちゃんもとても元気な血統で、安心して譲ってくれたとのこと。



Hさんは受話器の向こうで泣き出しました。




「ごめんね、妹尾君、本当にごめん・・・あんなに元気でやんちゃな赤ちゃんだった子が・・・麻呂は私が引き取るから・・・」



「Hさん、あなたのことだからそう言うと思っていた。だから電話しずらかった。でもね、俺と麻呂はもう飼い主と犬の関係じゃないから。一緒に生きていく相棒だから。心配しないで。二人で戦おうって決めたんだから。」





翌日、私はHさんの自宅に行くことになりました。

電話の後、日本中の友達に電話をして情報を集めてくれたそうです。





奇跡なんてよくあること。

毎週テレビのネタになるくらいはある。

なんなら根性と気合いで奇跡する。




少しだけ、ほんの少しだけ希望が見えてきた気がしました。




麻呂6





夜中に、痙攣で苦しむ麻呂を抱き、私の胸から、腕から、頬から全ての感覚を使って伝えました。




お兄ちゃんがついてる・・・大丈夫だからな。




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デル君殺人事件。

ありゃりゃ・・・


斉藤さん(PC)の弟分、デルさんちのノートパソコンが死にました。


全然言うことを聞いてくれないのでマウスを液晶に向かってエイヤッと投げつけたら、中の人がつぶれたみたいにビローンって。

へんてこりんなことになって画面半分何も映らなくなってしまいました。



まぁ仕方ないというか高くつくことになっちゃったって言うか・・・


アホ全開です・・・

むむぅ。











なんでも世間的には連休だったらしく。

そんなこと全く知らないで3連休の初日から友人と日帰りの温泉ツアーに出かけようってことになっておりまして。

車で出発、即高速へ。

大渋滞。



なぜにっ?



と叫んでみたもののアフターカーニバル。

普段なら1時間くらいで行けるところにその何倍もかけてたどり着き、あふれかえった客と一緒にお風呂へ。

奥多摩の温泉なのですが、東京都内とは思えないほどの田舎、アンド情緒で。

泉質も身体にまとわりついてくるような粘りっこいもの。

近場にも良いところがあってたいそう喜んでおるところでございます。





で、早々に切り上げて帰宅、帰りはこんなにも早く着いちゃうのねーと。

だから早速飲みに行きましょうという分かりやすい馬鹿の一つ覚え的な展開。


トゥルトゥルになった体で焼き肉屋さんへ。

煙に燻されて違う意味でトゥルトゥルの重ね塗り。

てかてか、ベタベタになっての大満足でしたとさ。







翌日、知り合いの役者さんのお芝居を観に行くという約束を守りお昼から観劇。

うん、なかなか難しいお芝居で。

で、そのままもう一人、別の人のお芝居にハシゴ。

お笑いベースのもので難しくなく、楽しく観ることができました。

個人的にはやっぱり芝居は楽しい方が好きかも。

したらば懐かしい顔やいつもの顔や、とにかく知り合いがいっぱいいて。

今日は絶対に飲まないぞと誓ったのはすでに忘却の彼方。




はいはいはいはいはい、おちゃけおちゃけおちゃけ。

気がついたら終電をぶっちぎり。

仕方なく?電鉄会社が動き出す朝まで飲み屋で待ってようよってことに決まり。


本当に仕方なく飲み続けておりました。



当然昨日は身体の器官全てが休日と化しており、何かの液体を垂れ流すだけの朴念仁として立派に倒れ込んでおりました。






で、気づいたらデル君が死んでいた、と。





酔った私はいったい何にむかついていたのでしょうか?

今となっては全ては闇の中・・

もう一人の私しか知らない、闇に葬り去られたのでございます・・・






























<麻呂のお話 5>


私には縁の無さそうな、本郷は赤門をくぐり日本で一番と言われる大学に入っていきました。


若い先生が全て段取りは整えてくれています。

獣医科の外来に並び、順番を待ちます。





どのくらい待ったでしょうか。

春から夏へと心を弾ませるべき季節だったように記憶しております。

二階の待合室に連なって、外に飛び出すように設計さたテラスがあります。

例のピンクの持ち運び用のバッグに入っている麻呂を外に出し、暖かくなりかけていた空気を思い切り吸い込んでいました。




「絶対大丈夫。大丈夫大丈夫・・・」



何が大丈夫なのかは理解していません。

とにかく念仏のようにつぶやきながら自分をキープしようとしておりました。

風を感じるどころではありませんでした。






診察室では一通りの説明を受けます。

いかにもベテランぽい先生は敢えてそうするのか、普段通りなのか、淡々と箇条書きのような説明をしてきました。



1.全身麻酔の危険性。

2.幼体での連続した検査の身体的負担。

3.どちらにしても望ましい結果が出ることは考えにくい。

4.費用はとてもかかる。




1.2.は予想してきた。

麻呂と二人で乗り越えよう、ケンカしようと話し合ったこと。

3は知ったことじゃない。

それをぶっ飛ばすために来ている。

4,乞食になってでも何とかする。




負け惜しみの固まりです。

半分泣きながら麻酔、MRIとこなします。

これで良いのだろうか?






生きているのか疑いたくなるほど深い眠りについた麻呂を抱き、重い足取りで家路につきました。

胸に耳を当て、鼻先に髪の毛を垂らし、とにかく動いていることを確認していました。



やっぱり思ってしまう。

こんなに辛い事させて本当に良いのだろうかって。




100万分の1でも良いから変わってやりたい。



何もできない、何もしてやれない自分をこの時ほど憎んだことはなかったかもしれません。






夜中でしたでしょうか。

麻呂はまたもや突然に目を覚まし、元気に甘えてきます。



おしっこをトイレでやろうと必死に頑張っています。

だって、上手くできたら私は溶けるほど頬ずりをして誉めてあげるから。

それが嬉しくて嬉しくて、一生懸命トイレに行って用を足そうとしています。




しかし、、病魔が身体をむしばんでいるのでしょう、前足でしっかり大地を踏みしめることが難しくなってきているように見えました。


否、確実に・・・





この頃から現在ある現実を真正面からとらえていたように思います。

自分達を慰めても快方には向かわない。

現実を理解して、少しでも良いから良策を講じようと。

デジタルな自分を強く持とうと。









夜の発作も頻繁に起こるようになりました。

急に<キャインキャイン>と絶叫したかと思うと壁にぶつかるまでのたうち回って転がり、私が抱き上げても首をあらん方向に捻り上げて苦しみます。


大きな声で、いかにも遊びの続きのように



「麻呂!どーした、うん?びっくりしたのか。そっかそっか!だーいじょーぶだー、お兄ちゃんがずーっと一緒だからな!」




何なら大きくげらげらと笑って見せました。




「男の優しさは強さの裏返し。」





現在でも持ち続ける私の持論です。





首の毛が3つに分かれて痙攣しています。

声をからして




「ヒャインヒャイン・・」




助けを求める目ですがってきます。

何もしてあげられません。

何も、全く、ゼロで。



ははははは。

抱きしめる以外何ができるのでしょうか。


しばらくすると落ち着きを取り戻し、





「あー、びっくりしたよ、お兄ちゃん。でももう平気。ね、あそぼあそぼ!」




遊びたくてたまらず、前足で私にせっついてくるのですが上手く身体を支えることができません。

ジャンプのような形を取るたびに前足が両側に開き、あごから地面にぶつかっていきます。

それでもそれでも必死になって遊びたがる。







あーーあーーあーーあーーあーー。
















MRIの結果の出る日。

麻呂と二人、電車で向かいました。












「妹尾さん、これね、仕方がないです。安楽死させましょう。」






あーー、あーーあーー、あーー、あーー、あああああ。







か・み・さ・ま・・・・・そこにいるんでしょ?
これみてるんでしょ?
いいたいことわかってるんでしょ?
まだうまれてからよんかげつだよ?
これでいーの?













帰りの電車の中、女子高生の二人組が


「うわー、かわいい!」


はしゃぎながらピンクのバッグから出ている麻呂の頭を撫でていました。






私は、笑うでもなく気に留めるでもなく、ただその光景を眺めていました。





             麻呂5


                       <早く終わらせたいんですが。辛いわ。>











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「お疲れ!」の人、お疲れ様でした。

昨日でオールアップ(撮影終了)した俳優さんがたくさんいらっしゃいます。

皆さんと固い握手をし、再会を誓い合って労をねぎらいました。


感慨深く、とてもさみしい気持ちになっちまいました。


長い長い岡山弁からの呪縛から解放されたことでしょう。


皆様、お疲れ様でした。





さて、私も気持ちを引き締めてもう一踏ん張り。


そしてまた新しい世界を切り開いて行かなきゃ。




でもその前にちょと休憩。

どこか旅行にでも行く予定を立てようかしら。

そーゆーのを考え出すとすんごく楽しい気分になりまさぁね。


仕事じゃなくて遊びで出かけるの。

今の季節、バイクでもありゃぁ気分良くツーリングに行くところなんですが。




本当に悔しいぞ、俺のバイクを盗んだヤツ、地獄に行って良し。



帰ってこーい、ハヤブサー!



スタッフの中にもバイクが好きな人がいて、いろんな事を話していたらすっかり熱が再燃して来ちゃって・・・



バイクを持っている皆さん、気を付けて下さいね。

朝起きたらマイバイクが無くなっていておーまいがっ

これは本当に辛くて情けなくて、トホホですから。




先日地元にアフレコで帰ったとき、自分の知らないところがまだまだいっぱいあるってコトに気付きまして。


もう一度ゆっくり地元を散歩してみるのもアリかなーなんて。



ま、楽しい計画を立てようと思います。

















<麻呂のお話 4>



先生が何度も眼鏡に手をやりながらゆっくりと口を開きました。






「あの、ですね・・・妹尾さん。・・・んーっと・・・」





睨み付けるような私の視線をかわすためにもう一度眼鏡に手をやって、





「・・・良くない状態です。状態、といいますか麻呂ちゃんの場合はちょっと特別で・・・・」





私は微動だにしません。


否、できませんでした。


あらゆるシミレーションで鎧のような心を準備したはずですが、どこかに


<俺の麻呂に限って・・・>








心を隠しながら次の言葉を目で催促します。




「・・・先天性の水痘症でした。数はいろいろ言われますが、5万頭に一頭とか・・・。残念ですが長くは持ちません。」






・・・・



#%$&○7##'-!













誰が何を喋っているのだろう。



俺のことか?


麻呂のことか?





麻呂6







・・・・・




そうだよ、俺のことだよ、麻呂のことだよ。







こんな事言われるの、想像したろ。

現実を受け止めろと、頭の中で使ったことの無い回路が動き始めます。


麻呂に伝えたくない、パニックを伴う鼓動が自分の身体の中だけで処理しようと駆けめぐっています。







「・・・そうですか。」






さらに睨み付けるように答えました。


睨み付けないと頭が揺れているようで、姿勢すら保てなく感じましたから。





「妹尾さん、先天性の水痘症というのはですね・・・・・・・・」





先生の説明が始まったがどのくらい聞けていたんだろう。

知っているよ。

その病気のことなら知っているよ。

ミニチュアダックスのような犬には多いんだろう?

調べたよ、昨日。






「・・・・・・・大変残念ですが・・・安楽死しかないと思います。」





最後の言葉だけはしっかりと耳に入ってきました。

と言うか、声が耳に入ってから日本語に変換して、次に意味が分かった。












私ごとで大変恐縮ですが。

私は自分の中に、<自殺> という観念を持ち合わせておりません。

そりゃ、

死にたいほど辛い、とか

もう、こんなのだったら死んだ方がマシ、

とかはありますが深いところではなく言葉としてのものです。

自殺する人のことをここでとやかく言うつもりはありませんが・・



とにかく自分の命を自分で切っちゃうことは、どう計算しても出てこない答えなんです。


この時に言われました 安楽死 と言う言葉もそう。














心の中で何かが弾けたのを感じました。





「ふざけるな。何の治療もなくいきなり死ねってか!自分、何言ーとんか分かっとるんか!」





どのくらいの怒気を孕んでいたかは分かりません。

が、確実に反発しました。





「まぁ、妹尾さん、落ち着いて下さい。」





私の気持ちを落ち着かせようとする、目の前の若いエリート医師が無性にむかついてきました。





「治療できないんです。このままだと麻呂ちゃんが苦しむだけなんです。既に脳が圧迫されて原形をとどめていない。外に外にと追いやられて頭蓋内に水が溜まっていて・・・」









血液が逆流しています。

ええい、くそっ。

言うな。

何も言うな。

俺の麻呂が、生まれてまだ5ヶ月しか経っていない麻呂が?

いうないうないうないうないうないうないうな・・・言うな。

そんなはずがない!










声が。

遠くの方から聞こえているようです。

医師は私に、



「私が勉強した東京大学の獣医の先生を紹介しますから。そこに行って納得できるようになさってください。紹介しますから、ね。」



整理の付かない私の気持ちを察して、優しく話しておりました。








混沌。

カオス。

・・・

ははは、否、シンプルか。















その夜、麻呂と話し合いました。





「先生はさ、ああ言ったね。どうする、麻呂。
ちょっとしんどいかもしれないけどさ、喧嘩してみる?水痘症と。
いやいや、難しいところだねー。
でもな、お兄ちゃんならちょっと頑張っちゃうかもなー。
だってもっともっと麻呂と遊んでいたいからさ。
・・・無理はしなくていいんだよ。
麻呂にその気があれば、さ。」





はらはらと崩れ落ちてしまいそうな壊れ物をそっと胸に抱き、ニコニコと笑いながら話しかけました。

麻呂は不思議そうな顔をして少し首をかしげました。

私の胸からはい出て登ってきます。

鼻が私の顎の辺りに触れたと思ったら、ぺろぺろと舐め始めました。


ニコニコと笑いながら話しかけていたつもりでしたが、涙が溢れ落ちていました・・・

その涙を麻呂がゆっくりと。





「お兄ちゃん、泣かないでよ。
僕も悲しくなるよ。
僕はね、もっといっぱいフリスビーやボールで遊びたい。
ご飯ももっといっぱい食べたい。
それにお兄ちゃんと一緒ずーっと生きていきたい。
だから僕はケンカするよ!」








喉から声が漏れました。

どうしても抑えられませんでした。




この子の頭がおかしいって?

良すぎるくらいじゃないか。

脳が・・・何だって?

ちゃんと俺を理解しているし、今でもトイレを覚えようと一生懸命じゃないか・














東大の獣医さんに見せに行きます。

もっと詳しい検査とあらゆる可能性を模索するために。

具体的に言いますと、もう一度全身麻酔をかけてあらゆる情報を麻呂の身体から引きずり出す、ということです。

そして何をどうするのかを決める。







麻呂が。

麻呂が自分で私に言ったんです。

ケンカするって。




全面的に彼の言葉と勇気を信じることにしました。



二人三脚で戦いが始まります。

すぐに予約を取り万全の態勢と気持ちで臨みます。





「明日からはちょっときついぞー。遊ばないで早く寝ろよ、相棒。」




手を伸ばせば届くところに麻呂を寝かし付け、これから始まるであろう事を考えながら休みました。

                     

麻呂5


                      <思い出しちゃって続けるのしんどいけど>













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